七宝の謎

この話は現在ではいわば話の枕となっている。
家紋を探る』ではこの話をベースに新たに分かったことを書いている。
是非一度読んで頂ければ幸いである。

第一話 「花輪違」

七宝
七宝(画像1)
七宝花菱
七宝花菱(画像2)
輪違ひ
輪違ひ(画像3)
四ツ輪違
四ツ輪違(画像4)

紋帖による紋の違い」という参考本を購入した時の話である。
その本を注文し、届けにみえたのはこの書を制作した家紋関連業者の役員さんだった。制作時の苦労話をして下さったり、またこちらの質問にも答えて頂き、本当に感謝している。

色々な家紋間違いの話を聞かせて下さった中でこのような問題があった。
紋帖「紋の志をり」のP155に「七宝花菱(しっぽうはなびし:画像2)」があり、これと同じ形のものがP51に「花輪違(はなわ、ちがい)」で掲載されているのだという。

このP51の方は間違いだから全く無視して下さい。この紋帖は明治から版が変わっていないので訂正されないままなんです。
早速ページを捲ってみると、「なるほど。これは場違いだ」と一目で感じた。ここは「花」ではなく「輪違(わちがい)」の覧であった。従ってこれは「はなわ、ちがい」ではなく「はな、わちがい」なのだと直に分かった。
他の紋帖を調べてみると「紋典」も同様だった。「標準紋帖」と「紋づくし」は形の違いは若干あるがやはりここにも存在していたのである。

不思議に思い友人の上絵師(家紋を描く専門職)に意見を聞いてみた。
家紋の名称は外側から中へと読んでいくもの。するとこの場合は『輪違に花』になるはず。やはりこれは間違いではないのか
私はどうもこの一件に納得いかずにいた。何とかこの真相が知りたくなり、また私の悪い癖(探究心)が出てきたのである。
早速手持ちの資料から手を付け出したのだが、結局は図書館まで足を運ぶ事となった。

まず「輪違紋(画像3、4)」とは二つ以上の輪が連鎖、交錯した形を紋章化したもの。
この原形となる輪違い文様(画像5)はすでに藤原時代にあったという。この文様というのは「輪が連続的に重なり合ったもの」。この中心部に花形の文様をあしらったものが当時の人達に大変人気があったのだ。これが「花輪違い文様(画像6)」なのである。

輪違い文様(画像5)
輪違い文様(画像5)

花輪違い文様(画像6)
花輪違い文様(画像6)

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第二話 「転じて七宝」

三ツ待合七宝
三ツ待合七宝
(画像7)
四ツ待合七宝に花角
四ツ待合七宝に花角
(画像8)

では、この「花輪違」がどのように「七宝」に結びついていくかを話していこう。

七宝とは仏教用語であり「金、銀、水晶、瑠璃(るり)、瑪瑙(めのう)、珊瑚(さんご)、しゃこ」の七つの宝である。(宝船の神々が持つそれである)
そこで宝尽し文様の話になるのだが、これは中国の「八宝」「暗八宝」を我国流(日本風)に作り変えられた文様だという事が分かった。
「小槌、金袋、玉、丁字、鍵、分銅、蓑、巻物、笠、そして七宝」などなど。

ところがこの七宝。確かに七つの宝と書くのだが、この形からは何の事なのかはわからない。他の文様のほとんどが写生的表現であるのに対し、七宝だけが不可解なのだ。
そこで絡んでくるのが先ほどの輪違い連続文様。
これは一つの輪が四方へと無限に広がるという吉祥文様である。この四方が七宝に転じたのである。
これは当時の語呂合わせといったような言葉遊びのなのであろうか?それとも伝承上での間違いなのか・・・。
連続文様の場合は「輪違」「花輪違」であり、その中の一つを抜き出したものは四方。
つまり「七宝」という事になるのだ。家紋も単体で表したものは当然「七宝」だが、幾つかが重なり合うと「七宝つなぎ」や「持ち合い七宝(画像7、8)」と称するのである。

これらの紋帖の「花輪違」は七宝紋に転ずる以前の名称であり、言うなればこのページでは醜いアヒルの子の様なものなのかもしれない。

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京都家紋研究会

家紋を探る(ブログ)

森本景一
1950年大阪府生まれ。
染色補正師、(有)染色補正森本代表取締役。日本家紋研究会理事。
家業である染色補正森本を継ぎながら、家紋の研究を続け、長らく顧みられなかった彩色紋を復活させる。
テレビやラジオなどの家紋や着物にまつわる番組への出演も多い。
著書に『大宮華紋-彩色家紋集』(フジアート出版)、『女紋』(染色補正森本)、『家紋を探る』(平凡社)があるほか、雑誌や教育番組のテキストなどにも多数寄稿している。

森本勇矢
染色補正師。日本家紋研究会理事。京都家紋研究会会長。1977年生まれ。
家業である着物の染色補正業(有限会社染色補正森本)を父・森本景一とともに営むかたわら、家紋の研究に取り組む。
現在、「京都家紋研究会」を主宰し、地元・京都において「家紋ガイド(まいまい京都など)」を務めるほか、家紋の講演や講座など、家紋の魅力を伝える活動を積極的に行なっている。
家紋にまつわるテレビ番組への出演や、『月刊 歴史読本』(中経出版)への寄稿も多数。紋のデザインなども手がける。
著書に『日本の家紋大事典』(日本実業出版社)。
ブログ:家紋を探る京都家紋研究会



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