色に想ふ 〜森本景一色彩論〜 「色順応」

色順応1

生物は環境変化に対して適応する事で生存確率を上げる事が出来る。人類もまた古代より環境に順応して来たからこそ現在の我々があるのだ。順応とは環境変化から身を守るためのメカニズムに他ならない。

目にも順応作用がある。
映画館などの暗い場所へ急に入った時、最初は辺りがよく見えないが、時間と共に次第に見えて来る。これを「暗順応」という。またそこから明るい場所に出た時、眩しさで目に刺激を覚えるが、それも時間が経つと違和感がなくなる。これを「明順応」という。
そして「色順応」。例えばグリーンのサングラスをかけた時、最初は全てがグリーンに色かぶりするが、次第に気にならなくなる。これは目がグリーンに順応した証拠である。
それだけではなく我々が気のつかないうちに目は常に色順応状態に置かれている。
太陽は地球の地域や天候、また時間帯によって降り注ぐ光の色や量が違うためである。

人工照明も同様、各種類(メーカーや型番)により色に違いがある。これらは明るさだけではなく色温度の違いにも含まれている。しかし我々の目がこれらに順応する事により、色の変化から生じるストレスから守られているのである。
ところがこの色順応機能のために逆に困る事がある。
私の仕事がまさにそれだ。例えば補正作業の際、特に原色を使った製品の場合、刺激的な原色に目が色順応を起こしてしまい、正確な色の識別が困難となる。そのために我々はいつも目をニュートラルな状態に保たせるよう気を配らなければならないのだ。

「大宮華紋」制作で紋場を強調色で仕上げたい場合もこの問題がつきまとう。
刺激のある色に仕上げたいが、いつまで経っても思った色の彩度に上がらない。
ところが、作業を一旦中断して再び作業のついた時、思った以上に彩度が上がっている事で驚かされるのだ。
これは彩色作業中に色順応状態が進んで行くのに気がつかなかったということなのである。
大宮華紋発案当時、サンプル作りをしていた頃に散々思い知らされたのだ。

画像(彩色家紋、作業手元)

日常生活では色順応によって救われている事が多い。しかし微妙な色を吟味しなければならない。我々はまたこの機能に悩まされる訳なのである。