「とても安く手に入れた着物だったのに・・・こんなはずじゃなかった!」
せっかく安く買ったものが、とんでもない難物だったと嘆いてしまう・・・。このような経験、皆様の中にもおられるのではないでしょうか?
安く手に入れたつもりが、予想外の直し代がついたり、使い物にならないようなものであったりと、結局は高い物になってしまうような場合があります。ウキウキして買ったものなのに気分は一気にドロー。これでは何もなりませんね。
そこで皆様にはこのようなことにならないよう、上手なお買い物をして頂く為の「難物の見極め方」について、いくつかご紹介致しましょう。
私は染色補正師として長年難物に取り組んでいます。簡単に説明しますと、染色補正業とは染物や織物が出来上がるまでに起こった事故を元通りに直したり、お客様がお買い上げになった後のお着物などのメンテナンスを行う仕事のことなのです。(詳しくは染色補正のページをご覧下さい)
つまり思いにもよらない難物を手にしても、私達の手にかかればお召しになれる状態に甦らせることが出来るのです。
当社の業務内容はシミ抜きを初めとし、染めムラ、織り傷、色ヤケ(退色)などを直したり、染め直し、染色加工、紋入れ加工などの和装総合クリニックです。
依頼の中には、
このようなお着物が多々あります。
しかしそれらの発覚しにくい原因も私達染色補正師からは見えることがあります。
皆様には、「難物を買わずに済む方法」「難物を直せる方法」「仕立ての工夫次第でお召しになれる方法」などをご紹介させて頂き、少しでも良いものをお値打ちにご購入出来るようお役に立てればと思っております。
アンティークやリサイクル品は今大変なブームです。
着物雑誌などに着こなしや、古布のアイデア商品も紹介され、新たな魅力で私達の目を楽しませてくれています。
またこのような古いものは、現代にない加工方法や生地などが一つの魅力でしょう。さらに生地の退色というマイナス要素も「一つの味」として人々を魅了しています。
しかし着用となれば様々な問題点が現れてきます。その問題点とは大まかに分けて「劣化」「サイズ」「カビやシミ」の3点の事です。
アンティーク品は「万が一着用できれば儲けもの」。もし着用できなければ鑑賞用、あるいは古布として形を変える。これくらいの覚悟は必要でしょう。
第一に生地の劣化があげられることから、衣料としての価値は低くなると思われます。
その多くは洗い張り(解いて水洗い)に絶えられず、破れる危険性と隣り合わせだということを忘れないで下さい。
もちろん着用時にも気をつけなければならないのは言うまでもありません。
現代の女性は平均的に体格が良くなり、特にアンティークものでは裄が短いと思われる事があるかも知れません。昔のものは生地巾も狭く仕立て替えにも限度があります。
カビの出たものや臭いのするものも多くあります。
カビは表面に白く出た段階なら洗い落とせますが、黄色から茶色や黒に変色したものは直らない事が多いです。
シミについても同様で変色が進むと、直せないものや直せても高額な費用がかかることもあります。
ここでいう「破格品」とは新品なのにも関わらず、格安で売られている商品のことです。また、販売価格が白生地代やそれ以下の価格のものと致します。
これらは「販売側の不十分な難のチェック」や「難の未表示」である事が大半であろうと思われます。
ですからこの場合、
「白生地を購入したら、染めや模様という“おまけ”がついてきた」
くらいに思って頂いた方が良いかと思います。
しかし消費者の皆様が、商品の状態を十分に把握出来ないと、この「おまけ」という利点を生かすことができません。
そのためには購入するまでに十分に知識を持って商品を見ておいた方がよいということです。
ではどのように商品をチェックすれば良いのか、話を進めていきましょう。
項目は以下の4つです。
色ヤケとは主に紫外線によって地色や模様が退色したことを指します。
元通りに直らない場合もあり、直せても数万円と高額な費用がかかる場合もあります。
この点が破格値になった一番の大きな要因だと考えられます。
四丈物(表生地三丈+八掛一丈)の場合は、表と八掛の境目で折り返し、その部分を出して展示する事があり、変色のチェックポイントです。
変色箇所が中に巻き込まれていることもあるため、反物の入り口はもちろんのこと中まで十分チェックを忘れないようにして下さい。
反物の入り口が変色していることが多いです。中には入り口から一丈もの広範囲に渡っているものもあります。
時には反物の途中で折り返して展示してあることもあるため、一応全体のチェックが必要です。
これらの反物のヤケが発覚した場合、お仕立ての際に、裁ち合わせで寸法を無駄なく取り、残り(捨てる部分)を変色部分にあてます。
もし変色部分が少ない場合は仕立て上がれば全く分からなくなります。
どうしても隠せない場合は下前身頃(右前身頃)にもってくれば、着用時には殆ど分からなくなります。
上手くいけばお買い得品にあたる確率は高いのではないでしょうか。
どちらにしても信頼のおける仕立て屋さんにご相談して下さい。もちろん当社でもご相談を承っておりますので、お気軽にご連絡下さい。
反物の入り口から片袖、片身となっており変色していることが多いです。つまり右袖、上前(左前身頃)。広範囲だと左後身頃まで退色していることがあり、これは展示の形を示しています。
付下着尺の色ヤケチェックは、左身頃の脇の合い口と上前おくみの合い口の3枚を必ず合わせて下さい。
付下げ着尺の場合は仕立ての都合で隠せることはありません。
お買い求めの前に十分ご検討下さい。
以上1、2、3の項目が反物の色ヤケのチェックポイントです。
ヤケがひどいものは反物の耳(側面)、また反物の入り口の裏面も汚れやヤケがあります。
芯木棒の汚れも目安になることがありますので、この点にもご注意下さい。
仮絵羽類の多くは展示のため、色ヤケしている確率が非常に高いです。
肩山、袖山、衿山、脇、裾などの折れ筋。また上前身頃、衿、おくみなどは全面に変色が見られることが多くあります。
衣桁にかけて長期展示してあったものは、全面にわたり退色していることが考えられます。
チェックポイントは、肩山、袖山、衿山です。この箇所は両手でつまんで、広げれば一目で分かります。
続いて脇です。チェック箇所は左脇の上下半分にたたんだ所と、もう4分の1にたたんだところ。そして左袖付けです。
これらの箇所はたたんだ折れ山になりますから、汚れやすい事に加え、変色もしやすい箇所です。
また広範囲の変色は仮縫いの中の元色と比べて見なければ、分からないことがあるので十分に注意しましょう。
お店に了解が取れればですが、糸を解くとより判断しやすいです。
尚、仕立て寸法が仮絵羽の寸法以内であれば、脇と裾の折れ筋ヤケは仕立て時に縫い込みに入り、直さずに済みますから、価格によってはお値打ち品を見つけることができるでしょう。
しかし仮絵羽寸法より仕立て寸法の方が広くなる場合は、ヤケ直しに高額な料金がかかることがあります。
また合い口の柄が切れたり合わなくなることもあるため、身幅や裄が広くなる場合はご注意下さい。
前途したように色ヤケ(退色)の多くは補正で直すことができます。
同時に合い口の柄合わせも必要とならばご相談して下さい。心得のある業者なら最善の方法で対処してくれます。
これらも含めて購入前に、業者に十分なご相談と見積もり依頼することをお薦めします。
染め斑(ムラ)とは、染め物の均一に染まっていない状態のことを指します。
それは模様場であったり無地場であったりもします。
模様場のムラは手差し友禅の場合に多く、手作りの味と難との見解が難しいといえます。
さてここで取り上げたいのは、一反の反物の中で極端に地色が濃淡に染め上がってしまったものや、色目の違うものなどの難物のことです。
これらの難は反物状態では分かりにくく、お仕立て後に初めて発覚することが多いです。つまり本仕立てや仮絵羽の合い口(縫い合わさる部分)により色違いが見えてくるというものなのです。
これらは色ヤケと混同されることがありますが、染めムラには前述した展示ヤケのようなパターンはありません。
ですから反物状態では殆ど見つけにくく、お直しが必要なものについてはお仕立て後になるでしょう。
仮に反物状態で色違いが発覚した場合、お仕立てになるまでに、下直しをしておいた方が良い場合があります。
それは仕立て上がってからの色合わせのリスクを少なくするためのものです。
直し代 が高額になる恐れのある時、無地染めなら色抜きをして染め直した方が安くつく場合もありますから、業者の方によくご相談下さい。
ガード加工は仕立て後、問題がないか全てをチェックしてからにしましょう。
これはガード加工が色掛け作業の妨げになるためです。
以上の直す手順についてはヤケ直しの場合にも同様です。
シミと一口に言っても様々なものがあり、直せるものもあれば直せないものもあります。
また直せるものも簡単なものから難しいものがあり、特に破格商品については十分なチェックが必要です。
直すのが困難であったり不可能なものとは、変色した古いシミです。
付いた当初は見えないモノでも、そのほとんどはやがて黄色く、進めば茶色っぽくなってきます。
また多くのシミは熱をかけることにより、落としにくくなったり、落ちなくなります。
ではどのようなものがあるのか例をあげてみましょう。
最初は白く出ます。この段階では水洗いなどで綺麗に落ちてしまいます。
しかし変色まで進むと漂白が必要となりますが、織物や染め物の多くは不可となってきます。
破格商品には長く眠っていたものもあり、生地の両面にわたり十分なチェックが必要です。
付いた当初は乾けば見えなくなることが多く見過ごしてしまいます。
そして黄色く変色してきて初めて発覚するという、始末の悪いものです。
未仕立ての着物とはいえ油断は禁物です。
お店や展示会での試着の際に付着ことも多々あります。
絵羽もののチェック箇所は、まず両胸の袖付け下あたりです。
変色してなくても水型のようなものが見えれば要注意です。
反物といえども安心はできません。小紋や付下げなども着物の形に試着できますから要注意です。
また汗をかいた手で着物に触れるのも危険です。少量のものは変色してきて初めて発覚しますから、非常にやっかいなものです。お買い物される皆様もお気を付け下さい。
汗は水洗いで落とせますがこれも変色すれば漂白しなければならず、上記同様の問題が起こってきます。
これらも試着時に付く可能性が高いため、新たに付けないようご注意頂きたいものです。
しかしこれら油性のシミはベンジンなどで落とすことができるため、さほどの問題ではありません。
知らない間に手を怪我していた。こういう時にうっかり付けてしまします。
付いて直ぐなら簡単に落とせますが、ここはやはりプロに任せた方が良いでしょう。
気をつけないといけないのは、時が経ってなくも熱をかけると落ちにくくなるということです。
例えば購入後の湯のしやアイロンは禁物です。
体液などの動物性タンパクは、熱によって固まる性質があります。決してお湯などでも洗わないで下さい。
着物に使う金彩には「緑青(ろくしょう)」という青緑色の錆を発生させるものがあります。
せっかくの美しい金彩がこの緑青によって台無しになることが多々あり、和装業界では問題の一つになっています。
では少し専門的になりますが、判明している原因をいくつかご紹介しましょう。
数ある金彩材料の中で緑青の出るのは銅であり、亜鉛との合金の真鍮を用いた材料に限ります。緑青は様々な要因が重なって生じるとされ、その要因とは「酸」「アルカリ」「イオウ」「塩分」「湿気」などです。
具体的に主な例をあげてみましょう。
緑青の原因は皆様のご存じないところに潜んでいます。
銅の合金材料全てに酸を中和するバインダーが使用されているという保証はありません。またベンジンによるしみ落としや洗いでは、アンモニアの混入されたベンジン用ソープがその大半をしめており、入念な濯ぎ上げがなされるか否かは作業する者の心一つなのです。
このように皆様の大切なお着物は金彩職人やシミ抜き職人への信頼の元にゆだねられているのです。
緑青は特に金くくり(線)に多く見られ、最初は綺麗な青緑色を帯びてきます。
この段階で発見出来れば、鮮度の高いベンジン洗いで解決するともありますが、金そのものが黒く変色してくれば手遅れとなります。
その場合、金彩加工を落として新たに加工となりお直しに高額な費用を要することとなります。
アンティークものの殆どは金が黒ずんでいますから、皆様は「そのようなもの」と思い、ご覧になってらっしゃるものと思います。しかし未仕立てのもので、既にこのような変色が見られてはお困りになるのではありませんか?
尚、純金の場合はこのような緑青は見られません。また「本金使用」と表示があっても全て純金とは限りません。
金彩をよくご覧になって下さい、緑味を帯びているものは要注意です。
古くなった着物を染め替えることはよくあります。退色したものや「年齢と共に色が派手に感じてきた」という場合など。ところが綺麗に染まらなかったために、着ることが出来ないという例もまた多くあります。
では染め替えとはどういうものなのか。またその失敗はどうして起こるのかをお話していきましょう。
染めには、染料で炊きながら染める「浸染」と、張った生地に染料を刷毛で引いていく「引き染め」があります。
浸染は無地にしか染めることができません。柄物を染めるときは引き染めでなければなりません。模様部分には色が付かないよう、模様部分を糊で伏せて地色を引くのです。
さて問題は、着用したものや古い着物類です。これらはなんらかの原因で生地に異変があると考えなければなりません。
例えば、シミ、カビ、スレ傷などがあげられます。つまり色掛けでシミやカビを隠そうとしても、新たな染めムラを起こす危険性を秘めている訳なのです。染料はそういう生地の異変にはとても敏感なのです。
また着用時の摩擦によるスレ傷は引き染めの場合、色溜まりを起こします。この現象は生地の正面からは濃く見え、斜め(生地を鋭角に見る)からは見えないというものです。浸染の場合は正面からは見えず、斜めからは白く毛羽状に見えます。
シミ跡は染料を吸い込む場合と逆にはじく場合があります。このように古物の染め直しは、染め上がってみて初めて分かるというリスクの高いものだということをご理解頂きたいです。
その中でも二次的染めムラを最小限に止める最善の方法をご紹介いたしましょう。
解き羽縫い(仕立てを解き元の反物状態に縫い合わす)をします。その時に決して湯のしはしないで下さい。これは熱によって汚れが生地に染まり込み、取り返しのつかないことになる危険性があるからです。
続いて水に浸けて「染め下洗い」をします。これはスレを出さないのが第一条件です。
一度スレて毛羽状になったものは直す手立てがないということを忘れないで下さい。
また、ものによっては染める前に色抜きをした方が良い場合もあります。
色抜きによって元色が薄くなった分、薄色や鮮やかな色にも染め直しが出来るということです。
「全体の色掛けによって柄がくすんだから鮮やかにしたい」「柄の色が派手だから地味にしたい」このような場合もまた新たに柄部分の彩色は可能です。
また、落ちてしまった金彩の復元や、シミを隠す意味での金彩加工も可能です。
この段階までくると見違えるほど美しく変わることでしょう。
いずれにしてもこれら全ては私達プロの仕事です。加工を依頼される前に十分に説明を受け、きちんとした打ち合わせをして、見積もりを立ててもらいましょう。
もちろん当社でも、お直し、染め替えなどの加工や制作まで、これらのご相談や見積もりを承っております。
経験がものを言う世界ですので、信頼出来る業者をお選び下さい。